「アヴェ・マリアのガンマン(70)」

PISTOLERO DELL AVE MARIA(伊)「アベ・マリアのガンマン」、FORGOTTEN PISTOLERO(英)「忘却のガンマン」劇場未公開、DVD公開題名「アヴェ・マリアのガンマン」

カテゴリー(Leonard Mann)

監督フェルディナンド・ベルディ、脚本フェデリコ・デ・ウルティア、ピエロ・アンチッシ、ビンセンソ・セサミ、フェルディナンド・ベルディ、撮影マリオ・モンティオリ、音楽ロベルト・プレガディオ、出演レナード・マン、ピーター・マーテル、アルベルト・デ・メンドーサ、ルチアーナ・パラッツィ、ピエロ・ルッリ、ピラール・ベラスケス、ホセ・スアレス、ルチアーノ・ロッシ

1970年代に入ると、日本でのマカロニウエスタンブームは去り“スタイリッシュな格好良さ”“工夫を凝らしたガンプレイ”“復讐に賭ける執念”などマカロニウエスタンの特色を備えた作品の公開は控えられるようになり、マカロニらしさを無くした異色作が細々と公開されるだけとなった。そのため、我々は70年代になっても本国イタリアで制作され続けていたマカロニテイストに溢れた痛快な作品のいくつかを見逃してしまうことになったのである。そうした痛快な70年代マカロニの代表的な作品の一つが本作品。

監督は、マカロニウエスタンの隠れた傑作を数々生み出している職人フェルディナンド・ベルディ。復讐の執念に生きていた男がやっと宿敵の前に立ったとき、そこには悲しい血の秘密が隠されていたという同監督の名作「ガンマン無頼(66)」のパターンを踏襲した作品だ。今回は「ガンマン無頼」以上に男女の愛憎をか らませて人間関係が複雑に交差する物語になっている。

記憶を失っている若きガンマン、セバスチャン(レナード・マン)は、山賊の襲撃を受け負傷したラファエル(ピーター・マーテル)を助ける。助けたラファエルから、セバスチャンはカラスコ将軍(ホセ・スアレス)の息子であり、父は裏切り者トーマス(アルベルト・デ・メンドーサ)によって殺されたことを知らされる。ラファエルは、かつての使用人の息子で、セバスチャンに真実を伝えるために荒野をさすらっていたのだ。しかし、真実はこれだけではなかった。美しい母アンナ(ルチアーナ・パラッツィ)は、トーマスの妻となり、共に暮らしていたのだ。アベ・マリアの刻を知らせる鐘の音と共に、セバスチャンの記憶が少しずつ甦り始める。

本作品の何よりの魅力は“美しさ”だろう。 マリオ・モンティオリの見事なカメラワークによって描写される豪華な貴族の庭園や館の内部の美しさは他のマカロニウエスタンではなかなか見ることができない。さらに本作の雰囲気をいやが上にも盛り上げるのが傑作中の傑作と評判の高い 美しい主題曲。作曲したロベルト・プレガディオは、派手さはないが心に染み込むようないくつかのスコアを残している。そうした風景や音楽を舞台に繰り広げられる愛憎劇のヒーロー、セバスチャンを演じるのは、マカロニとしては「ガンマン無頼/地獄人別帖(71)」のみが日本で公開されている美男俳優レナード・マン。彼の暗く沈んだ美しいマスクは、こうしたマカロニウエスタンの陰の部分によく映える。

燃え盛る屋敷をバックに繰り広げられる宿敵トーマスとの決闘シーンは数あるマカロニウエスタンの中でも屈指の格好良さ。登場人物の名前がセバスチャンにはじまりラファエル、トーマス、フランシスコ、イグナシオと皆、聖書に登場する聖者達の名前である点も、本作の「アヴェ・マリア」という格調高い題名にふさわしい。この「アヴェ・マリア」は、夕暮れ時を示す意味合いがあり、直訳すると「夕陽のガンマン」になってしまうため、日本でのDVD化に当たっては、そのまま「アヴェ・マリアのガンマン」という邦題になったと思われる。