マカロニウェスタン大全 「情無用のジャンゴ」 1966

2021-04-21

SE SEI VITO SPARA(伊)「生きていたら撃て」、DJANGO KILL(英)「殺せジャンゴ」劇場公開作品

カテゴリー( Tomas Milian)

監督ジュリオ・クエスティ、脚本フランコ・アルカリ、ジュリオ・クエスティ、撮影エンツォ・バルボーニ、音楽イバン・バンドール、出演トーマス・ミリアン、ロベルト・カマルディエル、ピエロ・ルッリ、マリオ・トロ、レイモンド・ラブロック、パトッチア・バルトゥッリ

公開当時から超残酷な西部劇として大きな話題を呼んでいた、不気味で醜悪、観る者に強烈な印象を残す作品だ。意味ありげな数多くの場面の積み重ねを観ているといくらでも穿った読みができる面白さがある。トーマス・ミリアンが主演するマカロニウエスタンでありながら主人公が格好良いガンプレイを披露することはほとんどない。ミリアン演じる主人公は復讐のために乗り込んだ町の異様な雰囲気に翻弄されるだけで終わる。

主人公ら(映画の中ではミリアンはジャンゴという名称で呼ばれてはいない名無し)メキシコ人グループは白人の強盗団オークス(ピエロ・ルッリ)一味と協力して軍隊の運ぶ黄金を強奪する。黄金を手にして歓声を挙げる強盗団の脇では血にまみれた兵隊の死体がゆっくりと流れていく。襲撃は成功したが、最初から黄金を独占するつもりの白人一味はメキシコ人達を皆殺しにすると、黄金をさらって逃走する。重傷を負いながらも命を取り留めた主人公は通りがかったインディアンに助けられる。復讐に燃える彼は、残った黄金を弾丸に変え、裏切ったオークスにぶち込むために一味の後を追う。

この開幕からは当然、復讐物語の展開が予想される。しかし、予想は完璧に裏切られる。オークス一味は、流れ着いた町で皆殺しにされてしまうのだ。町にオークス一味が流れ着いた場面の描写がもの凄い。ロッキングチェアに腰掛けた男は倒れた少女の頭をブーツで踏み付けている。牧師は酒に酔って道端にヘドを吐く。窓のカーテンの隙間からは、喧嘩のあ げく相手に噛み付く女の姿が見える。町の住民の異常さが、ちらちらとフラッシュのように映し出される。さらには、オークス一味がやっと水にありついている横に白馬に乗った黒ずくめのガンマン(ロベルト・カマルディエル率いる一味の配下)が現れ、馬に乗ったままオークス一味をなめるように見渡すとリンゴをひとかじりして立ち去っていく。凶悪なオークス達が脅えきってしまう、すべてが狂っているこの町。町の住人はオークス一味が悪党であることを口実に、一斉に襲い掛かって来るのである。

やっと間に合った主人公はオークスに止めの銃弾を撃ち込むのだが、主人公の弾丸が黄金でできていることを知ると住民達は先を争ってオークスの傷口に手を突っ込む凄まじさ。これからも、嫉妬から義姉の服を切り裂く少年エヴァン(なんとレイモンド・ラブロック)、口の周りを脂で汚しながら正に野獣の本性を剥き出しにして肉をむさぼり食らう一団、そして公開当時、悪評をかった頭の皮剥、馬の臓物暴露のシーンへとつながっていく。スプラッタームービーの原点ここにありという感じであるが、ただの露悪趣味に走っただけの作品とは思えない部分がいくつもある。町民がオークス一味をリンチに掛けるシーンも見方を変えれば町民が悪党を倒すために立ち上がった図である。彼らは正義を行っているつもりであるということだ。正しいことを口先だけでとりつくろうことは簡単だ。

しかし、その行動は何が悪で何が善なのか簡単に見極めることはできないのではないか。格好の良いことを言っていてもその実人間なんてものは、という投げやりなクエスティ監督のメッセージを感じるのである。主人公ですらそうだ。彼とても軍隊を皆殺しにして黄金を奪った張本人なのである。敵に捕らえられ、黄金のありかを問 われたとき、彼は叫ぶ「しゃべるものか、俺は男だ。」しかし吸血コウモリを使った拷問にさらされ、彼は隠し場所を白状してしまう。

弟エヴァンを殺され嘆き悲しむ酒場の主人テンプラー(ミロ・ケサダ)。しかし、彼は黄金を隠す場所として神聖なはずの弟の遺体を利用する。ラストで燃え盛る業火の中、溶けた黄金を顔面にかぶり苦しむ悪党ハガーマン(フランシスコ・サンズ)を見て、神父が言う「可哀そうに、神に許しを請いましょう。」さんざん悪事に荷担した者が吐くこの台詞。表面をいくらとりつくろっても暴いてみれば中にはどろどろしたものがつまっているということが、臓物暴露シーンに象徴されているかのようにも思われてくる。

町民の極悪非道な行為に比べたらさしたる悪事をしているとも思えないボス、ソロ(ロベルト・カマルディエル)を倒し主人公は町を去っていく。墓場で「私の方が醜い」と顔の醜さ比べをやっている子供達がその後ろ姿を見守る。最初から最後まで、大人の醜さ比べを見せつける、シュールな作品であった。